« 「市民自治基本条例」 | メイン | リサイクルでは解決しない。 »

2003年07月25日

矢祭町の静かさ

 福島県の矢祭町といえば「合併しない宣言」で一躍有名になりました。辻山ゼミでは夏合宿で社会調査をしますが、今回の調査地が「矢祭町」です。今日はそのプレ下見に行くと言うので、ついて行くことにしました。

 矢祭町までは東北道の白河ITで下りてから、車で約1時間ほどのところです。町に入ると生活基盤安定事業として道路工事をしていました。いわゆる日本の‘町’の風景が広がっていて、田んぼが見えて、その向こうに集落がありました。白河市からつながる道路は矢祭町の北から南への幹線道路で、中心街へ行くと道路沿いに商店街が広がってきます。
 まず、町役場に行きましたが、同じく道路沿い中心街の「東館」という地区にある役場は通り過ぎてしまうほど小さな建物でした。地方のほうへ行くと庁舎が‘まち’のシンボルのように立派な場合が多いのですが、矢祭町の場合は全くそれとは正反対でした。
 正直、1961年に建築された庁舎は歩くと少々ミシミシ音をたて、役所と言えば大量の書類がこの建物のどこに保存されているのかと心配してしまいました。職員の方に尋ねてみると「そうなんだよねえ、でもお金がないからなあ。」それでも2年前にようやくクーラーを導入したそうです。町長が不在だったのがとても残念でしたが、町長室はすぐに誰でも入りやすい場所にありました。職員の方はみなさんとても人が良さそうな、親しみやすい方ばかりで、私たちが立ち話しているのを笑顔で見ながら必ず会釈をしてくれるところが温かいなと思いました。

 町には単線のJR水郡線があります。駅前に行ってみると中学生の3人の女の子がいました。話しかけてみると彼女たちも合併のことは知っていると言うことでした。そして「町長さんがいると手を振るよ。」と話していました。みんな町長さんを知っているのだそうです。「どこにでも来る。」との発言には笑ってしまいました。
 矢祭町にはこれと言った産業がなく、昔は名産品だったこんにゃくも今ではふるわないそうです。お昼に入った食堂を商う女性に話しを聞きました。矢祭で生まれ育った彼女は「少子高齢化だし、高齢者が増えているしねえ…」と言っていました。若い人もほとんど後継ぎをしないし「就職するところがない」と声を落としていました。お出かけをすると言えば白河市に出かけるそうです。
 矢祭には高校がありません。中学生たちも隣の大子町(茨城県)か白河に行くと話していましたが、矢祭町からは人が流出せざる終えない状況があるわけです。そんな中で「合併しない」という判断をどう見ているのでしょうか?
 矢祭町のある東白川郡では矢祭以外の4自治体での合併を協議していたようですが、矢祭が「合併しない」ことを宣言したことが要因なのか、7月13日に合併の白紙撤回が決定したので、「やっぱり合併しないほうがいいのかな。」とも感じている・…というのが食堂の方の感想のようでした。

 「合併に賛成の人も反対の人も自分にとっていいことしか言わない…」ということを言っていた男性もいました。「だからどっちがいいかわからないしね。」30代の彼は何がいいのかよくわからないよねという表情で話していました。「矢祭町という名前がなくなるのは寂しいよね」というのが彼の合併に対する一番の思いのように感じました。

 とにかく矢祭町は静かでした。ただ「合併しない」宣言をしてから、町職員の削減や財政難への全職員あげての対応(町民に説明をする)や町民への負担(できるところはやってもらう)など様々な手段を講じる計画をたてています。何と議員も10名まで削減をする…・という決定をしています。ちなみに今は18名なので、この議会の決定がどれだけ大きなことかわかると思います。
 町は静かでも庁内は慌ただしい感じです。全国の自治体の約1割くらい(合併で悩む自治体の)がすでに視察に来ているそうです。それくらい「合併しない」が注目されているわけです。
 
 そして、もう一つ、「住基ネット」に接続しないことでも有名ですが、「だって、接続してもしなくても、何も変わらないんだよ」と話している職員のことばは印象的でした。「別に町民にとってのメリットってそこまでないしさ。お金かかるんだよ。」とおっしゃっていました。「接続してお金かかる分の負担がないから、その分を町民に還元しないといけないし、住民票を当面無料発行することが決めているよ。」…「本格的に始まってみないと、わからないことも確か。町の人にとって何が一番いいのかって考えなくちゃね。」 とても冷静だなと思いました。

 「(町長に)他に立候補する人がいない」という声もあります。対抗馬が出ない…6期目の首長はもともとは家具屋を商う商売人です。その感覚で矢祭町をひっぱってきたのでしょうか?ある意味で町長色に染められた町とも思えて、悪く捉えるとしたら「君臨」というイメージも持つことが出来るのかもしれません。いづれにしても首長に対する手腕は町中が認めるところなのでしょう。

 ちょうど今日も「合併」についての講演会が行われるようでした。みんなで一緒に「合併しない」を乗り越えるしかないと腹を括っている首長と議会と町民たちがどんな風にこの場所で暮しつづけていくのか私も東京で見続けていたいと思いました。矢祭がぐっと身近なところにかわりました。

投稿者 hisaka : 2003年07月25日

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
/420