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2003年06月30日

学校を地域に開いていくためには・・・

 中央大学で開催された都市政策セミナーに参加しました。このセミナーは法学部政治学科のゼミがいくつか集まって合同で企画をしています。私の学生時代にもありましたが、年に6回ほどセミナーを開催し、いろいろな人を招いてパネルディスカッションや講演をしてもらいます。今日のテーマは「教育」。2週連続講座で先週はフリースクール東京シューレの奥地圭子代表を招き、そして私が参加した今回は三鷹市立第4小学校の校長・貝ノ瀬滋さんの話でした。

 貝ノ瀬さんは「夢育の学び舎」構想の実現に校長として力を発揮なさっています。社会に活力を取り戻すためには、子どもたちを活力の在る人に育てなくてはならない、子どもたちが夢に向って元気に育っていける環境を創り出す…そのために地域社会と連携をしていこうというわけです。
 今までの連携は学校と家庭、地域の対等な関係があり役割分担の中で実現してきましたが、今や家庭も地域も単独で見れば教育力が低下をしているのが現実です。これからの教育は家庭も地域も学校もみんなで一緒に取組んでいく「融合型」の連携が目指されます。
 教育も随分と地方分権が進み、例えば年間100時間ほどある総合学習の時間は教科書もカリキュラムもなく学校ごとの自由裁量で内容を決定することが出来ます。まさに学校の自主性、独自性が問われ、ある意味でトップである校長の裁量権が発揮される部分です。

 三鷹第4小学校取組みは非常に有名ですが、学校をコミュニティスクールと位置づけ「教育ボランティア制度」を導入しています。
 ①コミュニティチャーは専門的な知識や技術を持った人が登録をし、主に総合学習の時間に活躍します。②学習アドバイザーは保護者が主体で算数や国語などの強化で先生の指導補助をします。事前には先生との打合せがあり、指導方法などで保護者側からの提案なども行っています。③きらめきボランティアは正規のクラブ活動以外の課外活動で放課後や休日などに子どもたちが自由に参加できる活動を支えます。手話や英会話、ハングル語、サッカーなどがあるそうです。

 教育ボランティア制度を始めるにあたっては、まずは地域の理解を得る必要があります。地域に説得・説明を行ったというように「学校の指導責任を放棄するのか」という声にも丁寧に答えました。学校が指導してきた内容に+αして、より豊かな学びを創っていきたいとの説明をしたそうです。子どもは「宝」というのは地域の思いと一致するところで、何とか動き出した試みです。
 恐らくスタートまでには紆余曲折在ったのかな?と思うのですが、当初はボランティア登録者20名でしたが、今では150名ほどの人が登録をしていて一日に20~30人ほどの地域ボランティアが学校に参画をしているそうです。貝ノ瀬さんが強調していたのは「先生と地域の人たちが一緒にやること、パートナーであり、決してボランティアは手伝いではない!」ということでした。教育現場に地域の人たちが参画をする、先生はボランティアをコーディネータしながら子どもたちにとって最大限いい学びの場を提供出来るようにしていく・…先生も学びます。「よく学ぶものこそよく教えられる」市民自身も難しいことをやさしく教える方法を学び、そして、もちろん子どもたちも先生や市民から学びます。…みんなの「学び」の場所になっているのです。

 この制度の評判は…もちろんいいに決まっています。ボランティア登録者は増えすぎて、活用しきれないくらいになっているそうです。子どもたちも地域の大人と触れ合うことに喜んでいます。地域の人たちも子どもたちとの交流で地域で挨拶をする機会が増えたと感じています。
 地域の中に学校があり、家庭があるわけで、地域が子どもたちにとって大人たちにとって心地よい居場所になる必要があるのです。貝ノ瀬さん自身、実際にはかっていないけれど地域が変わってきたことを実感しているそうです。

 さて、私が危惧をしたのは、貝ノ瀬校長なき後どうするのか?ということでした。人事異動は避けて通ることができないからです。校長の方針に左右されては困ります。そのことを尋ねると、すっかり手は打たれているようでした。
 教育ボランティア制度は今年の秋を目途にNPO化することに決めたのだそうです。そのことで学校と一定の距離を持ちながら活動することもできます。150人ものボランティアとの時間調整を学校が行うのは大変です。地域の自主運営により、学校の負担を軽減することにつながります。実際に教頭先生の負担はとても大きかったそうです。さらにはNPO化すれば、他地域の学校やフリースクールなどにもボランティアを派遣することが可能です。そのNPOには先生たちも登録をするそうで、異動してきた校長先生も自動的にメンバーになることを想定しています。これで教育ボランティア制度の継続性が担保され、活動そのものが広がっていく可能性大です。
 まさに貝ノ瀬さんが校長という立場で地域の仕掛人になり、コミュニティづくりに大きく貢献した事例です。「開かれた学校」というのは施設面での開放と教育内容そのものを開放していくという2つの側面があります。前者は進んでいますが、教育内容の開放はまだまだ進んでいません。けれども文部科学省が示している「地域に開かれた学校」とは後者のことだと思います。とはいえ、学校を開いたとしても地域がついてこなければ意味がありません。だからこそ、まずは地域づくりから手を加えていかなければ・・・。
 そこをしっかりと認識して、だったら学校をコミュニティづくりの起爆剤にしてしまおう!…地域ごと良くしてしまおう!と手腕を発揮した貝ノ瀬さんはやっぱり凄い人物で、パワーに圧倒されたのでした。「やる気」さえあれば…ということがヒシヒシと伝わってきました。

投稿者 hisaka : 2003年06月30日

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