‘英断’という表現がふさわしい-瓜生小への中学校不登校特例校の設置は見送りへ。

「必ず、もっといい構想に進化すると思う」

そして、進化させていかなければならないし、進化していけるように後押しをしていきたいと強く思えた昼下がり。久しぶりに傍聴した教育委員会の議論に「今日、ここで交わされた意見を忘れてはならない」と。

この間、コロナ禍で傍聴席が5人分しか設けられておらず、遠慮する気持ちもあったのですが、地域の方から連絡があり、今日の教育委員会定例会で「中学校不登校特例校の開設」が追加議案になり、どうやら傍聴席も増やすようだ知りました。なんと異例の対応ぶり!…それだけ重大なことが議論されるのだろうと予感しつつ足を運んだのでした。

そして、来春開設予定予定で着々と進められていた瓜生小学校内に中学校不登校特例校の設置をする件について、「今回の計画については、一旦立ち止まる。しかし、早急に設置計画の練り直しに取組んでいきたい。不登校特例校の設置方針は変わらないものの、開設時期と場所については再考していきたい」という提案が行われ、最終的に「再考する」との方針転換に至ったのです。

事務局の説明によれば、地域説明会などを数回実施した結果、「開設を急ぎたい気持ちはあるが、強行に進めることはできない」という判断に至ったとのこと。「開設したいと考えたそもそもの‘志’」に立ち返るとき、このままいくと当初の目的である「不登校状態にある子どもが笑顔で登校できる状況に持っていくことが難しい。」との理由が述べられました。

「決めたこと、確定したことだから変えることはできません」の一点張りで、今後も引き続き「説得型の説明会を続けていくこと」は禍根を残すとの判断を下したようです。既に文科省、都教委からのお墨付きも得て、進めていた案件。異例中の異例とも言える対応ですが、現況を冷静に捉え、真摯な協議が行われたという印象です。事務局として準備や段取りを進めてきた職員の立場からすると「唇を噛むしかない」ような状態であるとも思いますが、でも、無理やり進めることのマイナスのほうが大きかったと思います。既に議会に対しても9月には開設準備のための費用を補正予算として計上するとの方針が示されていましたし、今週から計3回の市民説明会実施や説明動画の配信の段取りも行われ、告知もされていました。それを考えても、とても重たい判断であるのかがわかります。でも、状況に応じた適切かつ必要な判断が下されたと私も評価したいと思います。「現状に向き合っていく」…英断であると受け止めるべきであり、むしろ、この判断をバネにしていかねばならないと感じています。今後、急ぎ告知されていくと思いますが、予定されていた市民説明会なども中止となります。

 

事務局である教育委員会、部長からは「見通しが甘かったことに責任を感じている」とする発言もありましたが、教育委員のみなさんからは「部長の責任ではないし、時間的なことも含めて、無理が生じてしまうことに配慮できなかったことにも原因があります」との趣旨のことが述べられ、誰かのせいにするのではなく、「不登校特例校の開設の必要性」から急いでしまったことへの振り返りの言葉が述べられていました。それを聞いていて、不登校特例校を開設していくべきだと考えてきた私もいろいろ思うところはありました。

 

不登校特例校については待ち望む声、期待、希望の光を感じた子どもや保護者もいたことと思うと、そこは胸が痛みます。しかし一方で、私自身も瓜生小学校で開催された説明会にも出席したときに直接耳にした意見、その後もさまざま地域の方からのお声を聞くにつれ「このまま開設をすると禍根を残すのではないか」と不安な気持ちに苛まれたことは事実です。この連休中も含め、今後、どう進めていくことが「最適」になっていくのだろう。何よりも子どもにとって幸せな環境を作ることができるのだろうと思い巡らせていました。

 

「不登校特例校の必要性は否定はしない。むしろ、こうした新たな場所が地域に設置されることは望ましいこと。構想そのものには異論はない。」という声がありながらも、「なぜ、小学校内にわざわざ設置する必要があるのか」という点での疑義は、保護者の方を中心にじわりじわり…ますます不安が広がってもいることも把握していました。教育委員会にとっては時間をかけて取組んできたことであっても、地域にとってはあまりにも拙速というか、まるで寝耳に水のような事態にもなっていました。何よりも計画づくりにあたり「当事者性」が埋め込まれていなかったことに対し、教育委員会に対する不信感は高まっていました。当事者性が意識されていたなら、計画にももっと裏付けがあって、肉厚なものであれば…(小学校内に設置というのもナイ話だったかもしれませんね)。その意味で、もっときちんと当事者の声を聞いてほしいというのは当然の主張であり、市長や教育委員会、議会にも疑問の声を上げていきたいとする方々の気持ちは私にも突き刺さるものでした。(ちなみに、この件、数日前のブログで少しだけ内容にも触れています)

 

さて、今日の会議では、「確かに、新しい取り組みは教職員はもちろんのこと、地域、保護者からの理解がないと難しいとは思う」「この計画に関わってきたものとして、当事者からの聞き取りが不十分であったと振り返っている」「日本の義務教育は単線であり、これを複線化しようという試みを諦めてはならないが、来春の開設というのは時間的には若干厳しかったかもしれない」という意見が出されました。「強行突破して、不登校特例教室の開設が心から喜べない状況になる恐れは回避していいと思う」との声もありました。しかし、「不登校特例校」への期待感は大きく「一旦、立ち止まるにせよ、早い時期に次の見通しを示していくことが必要」そして、「開設は一旦見送られたとしても、今、学校に通えない状態にあり苦しんでいる子どもたちに対してできることがあるはずだ。精力的に取り組めることはやらなければならない」等、教育委員のみなさんからは非常に力強く、共感できるような内容が盛りだくさんでした。

 

特に、「子どもは自分の気持ちを上手く言語化できない場合も多い。でも、子どもにも考えがあるのだから、対等に意見を述べられるようにしていかなければならない。もう一度、再出発するのだから、なおさら大事にして、当事者の声を聞いていきたい」と趣旨のご意見には胸が熱くなってしまった私です…。実は、今日の会議の中で、地域説明会の中で指摘をされた「当事者の声」のヒアリングにも早速取り組んでいる報告もあり、途中経過の数名の当事者の小中学生の声が紹介されました。「行ってみたい。先生に何回も質問できるような場所にしてほしい」「先生が優しいといい」「自分で活動内容を決めたい」…リアルな子どもたちの声はやはり心に響くものです。なおさらのこと「子どもの気持ちを大切にしていきたい」と私も思いました。ヒアリングに答えてくれた子どもたちの中の「先生像」も浮かび上がりますよね。私がこの件についてどう思うのか…って尋ねた中学生は「いい人たちがいれば行きたい。安心できる大人がいれば、いいけれど。」って答えてくれました。

 

思い出せば、議長の任から解放された改選後、久しぶりに行った一般質問でも取り上げたのが「不登校対策」でした。その際、冒頭で不登校のお子さん、保護者の方々とお目にかかる機会や接する場面を重ね、「1日でも早く、少しでもいいから笑顔になってもらいたいという思いを持ち続けてきた。」と発言しています。その当時から、多摩市にも不登校特例校を設置し、「新しい選択肢をつくりたい」との気持ちが強くありました。その路線で、教育委員会が精力的な取り組みを進めていたことを見守ってきた立場です。その際に、不登校対策のアクションプランが必要であることを指摘し、その後、「不登校総合対策」が完成したのは昨年秋のことでした。コロナ禍で想定してような取り組みができず、実は、「不登校特例校」の設置も予定では今年度から…という話しもあったので、教育委員会にしてみれば1年遅らせてきたという裏事情もあります。アクションプランの「不登校総合対策」に「不登校特例校の設置の検討」が盛り込まれたときには「これで、進んでいく」とうれしく思っていました。水面下ではアクションプランの策定と並行し、都教委や文科省(これがマニュアル)との折衝が行われていたものと推測しますが、結果、文部科学省から今年度に入り、5月11日に「不登校特例校(分教室)の設置が認められた」との話でした。しかし、開設場所が「瓜生小学校」ということ等、ちょっと「大丈夫なのかな」という気持ちはありました。それでも、「設置することの必要性が高く、文科省にも認めてもらったのだから。変えることは難しい。」と私自身も受け止めていました。

 

とはいえ、先にも書いた通り、私自身も今回の不登校特例校の設置に関し、改めて浮上してきた意見については考えさせられるものも多く、このまま開設へと突っ込んでいくことはできないような気もしていました。「当事者抜きで決めるのはいかがなものか」という声には、本当にハッとさせられましたし、地域エゴや住民エゴではない至極当然の声としか思えませんでした。最も大事にしなければならない点にも関わらず、開設を優先するがあまりに、スキップするに近い工程を経ていたことは認めざるを得ないとの思いが強くなっていました。「学校ぽいところにある適応指導教室『ゆうかり教室』には行きたいと思えない。」という子どもの声も思い出していましたし、もともと「瓜生小学校を不登校になっている子どもが、中学に進学して通いたい場所になるんだろうか?」という疑問もありました。もし、このままゴリ押しで進むとなれば、私自身もせっかくの「不登校特例校」の設置も喜べなくなるかも…と覚悟しないといけないとも感じていました。文科省や都教委からのお墨付きがあり、今更ながら、市教委として「やっぱり、ちょっと諸事情があって…」と方針転換を言い出すことの難しさあるなとも思ってきました。それだけに、「もう少し議論をしてより良い構想を練り直したい」という提案に正直、安堵の気持ちのほうが大きく、この決断を下すことができた教育長、教育委員会にホッとしました。もちろん、私のところにも寄せられていた期待には「ごめんなさい」という気持ちも大きい。

でも、だからこそ、次へ。「必ず、もっといい構想に進化させていく必要がある」と考えています。先進事例なども含め、もっと良くするための情報収集や当事者の声を集めたり、子どもたちにとって多様な学びの場が必要であることへの理解を地域に広めていきたいと思っています。

「子どもたちのために開設する『不登校特例校』」…仕切り直しにはなるものの、ここで中止するものではありません。保護者の方、あるいはこの件に関心を寄せてくださっている方…傍聴されていた方とも少しだけお話をしたのですが、「中止になったわけではない」ことに心を撫で下ろされていました。

 

いただきものの立派な桃の香りに癒されながら、今日一日を振り返るとき、教育委員会の議論のまんなかに「子ども」がいたことが何よりも一番うれしいことでした。私の身近にいる「あの子」の顔も思い浮かびました。「すべての子どもたちに居場所と学びを」。今日の判断は凍結とか白紙撤回とかではなくて、次に向かうための出発点。引き続き、「不登校特例校」の開設に向けた取組みをフォローしていきたいと思います。